第十四章 俺×ナオ 反省
第14章 俺×ナオ 反省
勇登が喫茶PJに行くと、ナオは勇登を無視した。
当然心配されると思っていたから、その態度に勇登は驚いた。納得がいかず、店の外に呼び出して理由を問いただした。
するとナオは「地に足がついていない人は嫌」といい残して、店に戻ってしまった。勇登は意味がわからないまま、仕方なく実家に帰った。
家に帰ると由良は熱燗で一杯やりながら、猫じゃらしで楽しそうにニャーと遊んでいた。
「元気ないじゃん。ついにフラれた?」
「うん」
勇登が素直にそういうと、由良の顔が真剣になった。
「なんかいわれたの?この女性の大先輩に話してみなさい。こう見えて、後輩からはよく恋愛相談されるんだから!」
勇登は迷った。母親にこんな話はしたくない。
けれども、自分に女心などわかるはずがない。それだけは、きっと一生無理だ。
「……地に足がついてない人は嫌っていわれた、どういう意味?」
由良は携帯を取り出すと、なにやら検索をはじめた。
「うーん、簡単にいうと、いい加減な人は嫌って意味かな」
「……俺が知りたいのは辞書の意味じゃなくて、ナオの気持ち!」
「うーん、ごめん。あたしもわからないや」
勇登は由良から猫じゃらしを取り上げると、ニャーを自分のほうに誘導した。
せめてもの反抗だった。
*
翌日。
閉店間際をねらって、勇登は再び喫茶PJにきた。すると、カウンターの向こうにはナオの母の姿があった。
喫茶PJはナオの祖母が朝メイン、母が昼メインでやって、昼過ぎから夜はナオがメインで営業していた。
「あれ、おばさんナオは?」
「あの子体調崩しちゃって寝てるわ」
「……そうですか」
「よかったら、ちょっとあがっていって」
ナオの母は勇登を家にあげた。
勇登はいつも喫茶店のほうばかりで、ナオの家にあがったのははじめてだった。
緊張の面持ちで辺りを見回すと、仏壇に目がいった。そこに置かれるにはまだ早い、航空会社の制服を着ている若い男性の写真が気になった。
「おばさん、この人……」
「ああ、あの子のお父さん。パイロットだったのよ。民間の小さな会社だったんだけどね」
ナオの父は死んだということはきいていたが、職業までは知らなかった。ナオがそんな話をしたことはなかった。
ナオの父は彼女が5歳のとき、墜落事故で死亡したのだといった。そして、ナオの母はこの喫茶店でナオの父と出会ったという話をしてくれた。
「今回あなたが危険な目に遭って、あの子も当時のこと思い出したのかもしれないわ」
「……すみません」
「あなたが謝ることじゃないわ。あの子、あなたが近くにいることが嬉しいみたいで、私に色々話してくるんだから。これからも、あの子と仲良くしてやってね」
ナオの母の話をきいて、勇登はこれまでナオのことを全然知らなかったことを反省した。
――地に足がついていないって、飛んでる人のことだったんだな。
勇登はナオの部屋の前までいくとドアをノックした。
「ナオ、入ってもいいか」
しばらくの沈黙の後、中から声がした。
「……駄目」
「じゃあ、そのままきいて、俺は元々父さんに憧れてメディックになりたかった。でも、父さんが死んだとき、母さんが泣いた。それで一度は夢を忘れた。だた、大人になってメディックのことを思い出したとき、子どものときよりも、なりたいって気持ちが強くなってた。一人でも母さんみたいに泣く人を減らしたいって思ったからだと思う」
突然、ナオがドアを開けて出てきた。
「父さんが死んだとき、すっごくすっごく悲しくていっぱい泣いた」
ナオは今にも泣きそうな顔でいった。
「ナオのことは悲しませないし、ナオが困ったときは俺が助ける」
勇登は笑顔で力こぶを作って見せた。
「でも、小学生のとき美夏にも『俺が助けてやる』っていったんでしょ」
「……それは、その、まあ、励ましっていうか……」
身を乗り出しかけたナオは、寝起きでパジャマ姿の自分にハッとして、急いでドアを閉めようとした。
しかし、勇登はすかさずドアを掴んだ。
「ナオのことは、俺が全力で助ける」
「死なない?」
勇登はそっとナオの頭を撫でた。
「守るべき人が増えると、人は強くなる。だから、俺は死なない」
※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、組織、名称とは一切関係ありません。