第13章 五郎×俺 残された仲間 13-2
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――心のどこかで、父さんが死んだことが許せなかった。
父さんのせいで、母さんが泣くことになったのだと思ってしまうことがあった。
でも、それは大きな勘違いだった。
自然の猛威は俺たちを簡単に飲み込んで、雪が、風が、その音が、じんわりと体力と精神力を奪っていく。
今なら、父の気持ちがわかる。
父さんは頑張ったんだ。
父さんは一人で必死に戦ったんだ。
ごめん、俺は全然わかってなかったよ。
絶対に帰って母さんに伝えよう。
父さんはやり切ったんだって、伝えよう――。
*
太陽が昇りはじめた頃、天候が回復した。
五郎は透きとおった空気の向こうの青空を見ながら思った。
――最後まで油断はできない。
五郎は装具を背負うといった。
「ピックアップポイントに戻るぞ」
「はい!」
五郎隊は木々の密集する場所から、少し開けた場所に出た。昨日降り続いた雪で、まっ平らな雪の表面はキラキラと輝いていた。
勇登は無邪気に新雪にザクザクと足を踏み入れた。
コロコロと小さな雪玉が傾斜に沿って下に転がっていった。
――!?。
「志島、待て!」
五郎はとっさに背負っていた荷物を降ろすと、きょとんとした顔で振り返った勇登の腕を掴んだ。
――今こそ、俺の命を大きく削るとき!
五郎は勇登を自分の方へ引き寄せると、遠心力を最大限に使って元来た道の大きな木の根元に勇登を投げやった。そして、五郎はそのまま勇登の立っていた場所に倒れ込んた。
次の瞬間、まっしろな波が五郎を飲み込んだ。
「……曹長?熊野曹長!!」
叫びに似た勇登の声は、雪で洗われた斜面に空しく響いた。
※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、組織、名称とは一切関係ありません。