第10章 (剣山×子猫)+俺 思い出 10-2
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剣山は外出先から基地に戻る途中、後ろ足を怪我をした子猫を道路わきの草むらで見つけた。
はじめは血を流しながらひょこひょこ歩いてたが、すぐにへたり込んでしまい、周りに親猫もいなかったので、かわいそうになって動物病院に連れて行った。
先生は高いところからジャンプして、下にあった釘やガラスで怪我したのだろうといい、化膿を防ぐ抗生剤を処方してくれた。
だから、それを数日飲ませる必要があり内務班につれてきた、と剣山は説明した。
「当然、内務班で猫なんて駄目だって知ってる。帰隊時限ギリギリだったし、入校中でこっちに知り合いもいないから仕方なく連れてきたんだ」
「だから、昨日は帰りが遅かったんですね」
宗次が納得したようにいった。
「ああ、とりあえず隣の倉庫においてたんだが、あそこ夜は寒いだろ。だから、皆が寝た後こっちに連れて来たんだ」
季節は11月、夜はそれなりに冷える。内務班では気兼ねせず電話ができる場所が少ない。剣山はよく倉庫で家族と電話していたから、そこが寒いと知っていたのだ、と勇登は思った。
「とりあえず、ここはまずいから誰かに預かってもらいたいと思う。もしかしたら飼い猫かもしれないから、昼休みに警察と保健所には連絡しておく。でも見つけた場所を考えるとそうじゃない可能性の方が高そうだから、最終的には飼い主を探す方向でいきたい」
剣山はそういって頼るような目で皆を見渡した。
彼が誰かを頼るなんて本当に珍しいことだった。
吉海が口を開いた。
「俺の彼女、事務官だから営外に住んでるんすけど、ペット禁止のアパートなんすよ。すんません」
「すみません、俺もこっちには誰も知り合いいなくて……、あ、そういえば勇登んちは?」
宗次が勇登を見た。
「いや、それがうちの母親今出張中で……なんでも、かけ足の強化選手に選ばれたらしくて……」
由良はいい歳して、恐ろしく足が速かった。
勇登は一瞬ナオのところも考えたが、飲食店は迷惑か、とすぐに思い直した。
「そうか、じゃあしょうがないな。……申し訳ないんだが、少しの間、ここにおいてもいいか?」
答えは明白だった。
肩を落とす剣山に勇登はいった。
「俺、子猫飼ったことあるんですよ。そいつが元気になるまで、みんなで面倒見ましょう!」
勇登の言葉で話がまとまった、と思われたところでジョンが叫んだ。
「おい!どうして俺には知り合いいないか、きいてくれないんだよ!」
勇登が「だって、……いないだろ?」としれっといった。
「いるかもしれないだろ!」
「じゃあ、誰かいんのか?」
「……いない、けど……一応きいてくれてもいいだろ」
しゅんとして答えるジョンの肩に、剣山が腕を回していった。
「ごめん、ごめん。ネタだよ、ネタ。冗談だって。ジョンもよろしくな!」
ジョンに笑顔が戻ったところで、起床ラッパが基地内に響き渡った。
※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、組織、名称とは一切関係ありません。