第8章 (俺×オレ)+(ジョン×五郎) 限界の先にいた仲間 8-5
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――山岳実習、3日目。
過酷な訓練を終え、勇登はやっとの思いで小牧基地に戻ってきた。
これで夏季山岳救助訓練が終わる。この後、風呂に入って山の汚れを全部落として、好きなものが食えると思うだけで勇登はワクワクした。確かロッカーの中に、ナオからもらったイチゴ味のチョコがあったはずだ。
身体はボロボロ、でも心はルンルンで教官の解散指示を待っていると、指揮所から放送が入った。
「……!?」
放送が終わるころには、全員の魂が抜けていた。
その内容は、山中に自衛隊機が墜落、直ちに救助に向かえ、というものだった。
数分後、勇登たちを乗せたUH60-Jが離陸した。五体の抜け殻を乗せたヘリは、再び先ほどまでいた山中に舞い戻った。
*
日が沈んですっかり真っ暗になったころ、救助活動は終了した。
激務の連続で、勇登の心は折れかけていた。まさかの3泊目。完全に予想外だった。夜は再び昨日と同じテントで寝る。
「まるで、デジャブだ」
そういいながら勇登は用を足すため、少し森の中に入った。
すると、ちょうどジャージ姿の亜希央が森の中から出てきた。疲れすぎて幻覚が見えているわけではなく、今回亜希央は支援要員として訓練に参加していた。
すれ違いざま勇登はいった。
「なあ、お前。まだメディック目指してるの?」
亜希央は立ち止まると「だったら?」と振り返らずにいった。
「いや、大変だぞって思ってさ」
「そんなの見てりゃわかる」
「それも、そうだな」
「ばっかじゃね」
亜希央は不機嫌そうな声でいった。
勇登は構わず、ずっと疑問に思っていたことを口にした。
「どうして、メディックになりたいんだ?」
「オレはヘリに乗って現場に急行して、人を救いたいだけだ――」
そういって振り返った亜希央の目はまん丸だった。
彼女は静かに勇登の後ろを指さした。
何かと振り返ると、勇登の視界に暗闇で目を光らせた何かが映った。
――イノシシ!?
その距離十数メートル。
これならそっと後退すれば、やり過ごせる距離だ。
そのとき、それが一歩前に出た。
「い!」
亜希央が声を上げた。
その瞬間、イノシシが二人めがけて突撃してきた。こうなってしまっては、どうしようもない。
勇登と亜希央は森の中をひたすら駆け抜けた。勇登の全力より、なぜか亜希央のほうが速かった。
無我夢中で走りながら、勇登はまずいことに気がついた。
「おい、亜希央止まれ!そっちは……」
勇登は手を伸ばすと亜希央の腕をつかんだ。
視界の木々がなくなり、目の前に大きな月が見えた。
ああ、今夜は満月か――。
と思った瞬間、二人はそのまま真っすぐに落下した。
※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、組織、名称とは一切関係ありません。