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小説『メディック!』

2021/9/15

#22『メディック!』【第5章】 5-1 (宗次×亜希央)+俺 もう一人の同期

第5章 (宗次×亜希央)+俺 もう一人の同期 5-1 前回のお話を読む(#21第4章 4-3へ)第5章をまとめて読むはじめから読む(プロローグへ) 第5章 (宗次×亜希央)+俺 もう一人の同期  水面を見上げると、自分の鼻から漏れた息が円になって水面にあがっていくのが見えた。 力を振り絞って足裏で水を蹴る。 プールサイドに立つ数人の人影は、水のフィルターを通して歪んで見えた。 水面に近づいた瞬間、何か棒のようなもので押されて再び水中に返された。 遥か下にある底を見ると、暗い海の底に引きずり込まれる感覚にな ...

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2021/9/15

#21『メディック!』【第4章】 4-3 俺×教官 メディックの種

第4章 俺×教官 メディックの種 4-3 前回のお話を読む(#20第4章 4-2へ)第4章をまとめて読むはじめから読む(プロローグへ)  その夜。  吉海の音頭で4枚目の写真を撮ることになった。入校式を記念しての写真だ。  今回は全員飛行服と決まった。飛行服は、搭乗員にしか支給されない。OD色のツナギで首から股下まで延びる銀のファスナー、ウエストの両サイドはマジックテープになっており、自分のサイズに合わせて調節が可能だ。腿の当たりにはメモをはさめるクリップ。ズボン部分の裾もファスナーで開け閉めができ、飛行 ...

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小説『メディック!』

2021/9/8

#20『メディック!』【第4章】 4-2 俺×教官 メディックの種

第4章 俺×教官 メディックの種 4-2 前回のお話を読む(#19 第4章 4-1へ)第4章をまとめて読むはじめから読む(プロローグへ) *  ――7月。  突き抜けるような晴天が夏の訪れを感じさせる日、小牧基地で救難員課程の入校式が実施された。  勇登が救難教育隊に転属してもう5カ月となるが、ここからが本当のスタートといってもいい。入校式を終えれば、そこから24週間の過酷な訓練を乗り越えなければならない。UH-60Jでの落下傘降下を含めた飛行実習、夏季山岳実習、海上総合実習、そして最後に、冬季山岳実習を ...

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#09 小説『メディック!』【第1章】1-8 俺×由良 夢のカケラ

2021年6月9日

第1章 俺×由良 夢のカケラ 1-8

前回のお話を読む(#08 第1章 1-7へ)
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 勇登はドアの前で腕時計を確認した。
 喫茶PJ、閉店10分前。

「ギリギリセーフ!」

 店のドアを勢いよく開けると、努めて明るくそういった。勇登と目が合うと、ナオは挙げていた手を焦って下ろした。

「何がギリギリセーフよ。もう閉店です」
 客のいない店内にナオの声が響いた。

「いいじゃん。少しだけ」
 そういってカウンターに座る勇登に、ナオは口を尖らせながら水を出した。

「今日は何よ?」

「ん?」

「知ってた?勇登は私に話があるとき、閉店間際にくるの」

「そうだっけ」
 勇登は天井を見た。

「そうよ。で、なあに?」

 勇登はここ数日の出来事をナオに話した。ナオはちゃんと聞いてくれると、勇登は知っていたからだった。 


「勇登は優しいんだね」

 一通り話をきいたナオは、開口一番そういった。思いもよらない言葉に勇登は赤くなった。当然反対されると思っていたのだ。ナオは続けた。

「勇登がお母さんを想う気持ちは嘘じゃないと思う。でも、それってお母さんのこと想ってることになるのかな」

「……どういう意味?」

「つまり、自分のせいで勇登がやりたいことやれてないって知ったら、お母さん悲しいんじゃないかな」

「まあ、……そうかもな」

「お母さんがどう思うかも大切だけど、それより、勇登がどうしたいかのほうが大切なんじゃないかな?勇登の話、ずっとお母さんが主役で、勇登はどこに行っちゃったのかなって思った。お母さんと勇登は別なんだし、お母さんがどう思うとかじゃなくて、そういうこと、全部、全部、取り払って素直な気持ちで考えてみたら?」

「それができればこんなに悩まないよ」
 勇登はアイスコーヒーを額につけた。

「じゃあ、仮に、仮によ、家族が全員元気で、問題がなーんにもなくて、どうぞ好きなことして下さいってなったら、勇登はどうしたいの?」

 ――メディックになりたい。

 勇登は心の中で即答していた。でも、言葉には出せなかった。

「なりたいんでしょ」

 ナオの言葉に勇登はコクリと頷いた。

「でも、いいのかな」

「いいも悪いも、それが勇登なんだから仕方ないんじゃない?私は勇登が勇登らしく生きれる道を選んだらいいと思う」

「そうかな」

「そうよ。……それにしても、勇登はお母さんのこと大好きなんだね」

「な!」

 勇登が顔を真っ赤にして反論しようとすると「別にからかってるわけじゃないから」とナオがなだめるようにいった。

「……まあ、嫌いではないよ」

「素直じゃないね」
 ナオは優しい目をしていった。

「だから、勇登の本当の気持ち、私は伝わると思う」

「うん……」

 ナオにそういわれ、勇登は大丈夫な気がしてきていた。

「あと、私思ったんだけど、勇登、大学受験のとき、二回も病気になったじゃない?」

「あ?……ああ、そんな事件もあったな」
 勇登は目をぱちくりさせて答えた。今の問題のほうが大きすぎて、すっかり忘れていた。

「あれって、勇登の中の本当の気持ちが必死に『こっちじゃない!』って教えてくれてたのかも、って思ったんだけど……」

「……それ、新しいな」

「でしょ!」

 ナオはこの日、はじめて笑った。

 受験に失敗したときは、情けないわ、恥ずかしいわで、本気で嫌だった。
 けど、もしナオのいうとおりだとしたら、今が本当の自分に戻るチャンスなのかもしれない。
 逃げずに、今もう一歩踏み込んで、あの事件を正解にしてしまうのだ。

 勇登は、すっかり氷が溶けてしまったアイスコーヒーを飲み干した。
 そして、「よし」といって勢いよく席を立った。

「帰るの?」

「ああ、ありがとな、ナオ!」
 心の底から出た感謝の言葉だった。

 帰り際、勇登はドアの隙間から顔だけ出していった。
「お前ってなんか、ばあちゃんみたいだな」

「ばあちゃ……はあっ!?ちょ、待て、こら、勇登!」

 ナオの声に押されて、勇登はすでに走り出していた。

 勇登は家に帰ってシャワーを浴びた。汗と一緒に体の表面に残っていた迷いも流した。
 きれいになった勇登は由良の机に座り、もう一度、文集に書かれた歪んだヘリコプターの絵を見つめた。

 正直な俺の気持ちは――。

 リダイヤルボタンを押した。

「母さん、俺、勇登。俺メディックになるから」

 通話がはじまった途端、一息でいった。そうすると決めていた。
 由良はしばらく黙ったままだった。聞こえなかったのかもしれない。
 心臓の鼓動が高鳴った。

「……あんたが、自分で考えて、そう決めたの?」

「ああ。俺が決めた」

「……そう。勇登が自分で決めたんなら、それは正しいと思う」

 由良がどんな顔でそういったのか、わからなかった。でも、後悔はしていなかった。

「頑張んなさい」

 あっさりと、しかし力強い口調で由良がいった。
 肩の力が一気に抜けた勇登は「あー、反対されるかと思った」と力ない声でいった。

「反対するわけないでしょ。あんたの父さんは、こ、の、わたしが、一番と認めた男で、その男に近づこうっていうんだから」

 由良は『この私』を妙に強調した。電話の向こうで胸を張る姿が思い浮かんで、勇登は思わす吹きだしてしまった。


 その瞬間、この前見つけたピースが元の場所にぴったりとはまり、心の中にあったパズルが再び完成した。

 勇登がメディックという言葉を口にしたのは、実に6年ぶりのことだった――。

つづく(第2章へ!)

※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、組織、名称とは一切関係ありません。


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