小説『メディック!』

#11『メディック!』【第2章】 2-2 俺×受験者 救助

2021年6月23日

第2章 俺×受験者 救助 2-2

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 ナオは店を後にする勇登の背中を見て、小さく息をついた。
 勇登の入隊と同時期に、ナオは調理の専門学校を卒業した。卒業後は一度どこかに修業に出ようか迷った。祖母と母も「店は気にせず行ってきな」といってくれたが、ここに残ることに決めた。

 店は現在、朝が祖母とパートの人、昼から夜は母とナオ、夜の食事の客が帰ってから閉店まではナオ、という流れができている。
 今では主力メンバーになりつつあるが、子どもの頃はこの仕事に全く興味を持てなかった。どことなく昭和の雰囲気が漂う古い店内はよくいえばレトロだが、思春期の女子はおしゃれなカフェのほうがいいに決まっている。
 それに、実家が店をやっていると、朝も昼も夜も忙しいからあまり構ってもらえないし、遠出の旅行にも連れていってもらえなかった。だから、自分は勤務時間が決まってて、きちんと休暇が取れる仕事に就こうと密かに考えていた。
 それが笑顔でレバニラを食べるヤツの姿見たさに、この仕事をするようになってしまった。しかし、きっかけはなんであれ、今ではこの仕事が楽しいし好きだった。

 そう、実家を離れなかった理由は、決してたまに現れるレバニラ男のためではない。


 ただ勇登に出会ってから、自衛隊のことを知れたのはよかった。それまでは、同じ市内にあることは知っていたが、特段気にしたことはなかった。関心のない情報は、勝手に入ってくることはなくて、自ら得ようとしなければ入ってこないのだ。
 勇登の入隊をきっかけに、多少はそちらにアンテナを張るようになった。年に一度、小牧基地で航空祭というのがあることも、勇登からきいてはじめて知った。
 そして、勇登がメディックの夢を思い出した年、航空祭に誘われた。飛行機云々より、誘ってくれたことが嬉しかった。
 しかし、当日の朝になって、急に熱を出して、結局一緒に行くことはできなかった。いつもは元気いっぱいなのに、どうしてかあの日に限ってそうなったのだ。

 勇登は帰省の度に、自衛隊やそこで出会った人の話をしてくれた。
 トレーニングを積みながら夢を追いかけてる姿もけっこう好きだった。

 ――試験に受かったら、もっと遠くに行っちゃいそうだな。

 ナオは店の前を通り過ぎる車を、見慣れたレースカーテン越しにぼんやりと眺めた。

つづく

※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、組織、名称とは一切関係ありません。


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