第7章 俺×母 降臨 7-2
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五郎は滑走路に定期便のC1が着陸するのを見届けると、ベースオペレーションの待合室に向かった。
「お久しぶりです、熊野曹長。どうしたんですか?こんなところで」
C1で小牧基地に降り立った由良は、目を見開いた。
「おつかれさまです、志島2佐。いやいや、うちにいる同じ苗字の人間が『今日恐ろしいものが、小牧に来る』と大声で噂してまして」
由良ははにかんだ。
五郎は由良とオペレーションの前で飛行場地区を見ながら立ち話をした。
由良とは、はじめて着任した部隊で知り合って、もう25年以上の付き合いになる。由良は幹部、五郎は空曹という立場で五郎が二つ年上ではあったが、基地内の合気道部で一緒になり、仲良くなったのだった。
「相変わらず、鬼ですか?」
そうきいた由良は、少し躊躇しているように見えた。
本当は息子のことを知りたいのだろうが、立場上遠慮しているのだろう。彼女の母性に触れて、五郎の心は温かくなった。
「まあ、鬼ですかね。今時スパルタは流行らない、古いっていう人もいますけど、僕は必要だと思ってるんですよ。この仕事は常に、反省後悔迷いが尽きない。過酷な任務を乗り切るためには、強い心が必要なんです。ところで、志島2佐は、植物とか育てますか?」
「いえ、サボテンを枯らすタイプです。そういえば熊野曹長の趣味って、確かガーデニングでしたよね。見た目とのギャップ、激しいですよね」
由良はそういって、くすっと笑った。
きっと皆そう思っているのだろうが、彼女のようにはっきりという人は少ない。見た目が怖いせいで、本当のことをいってもらえないこともある。
彼女は自分にとって貴重な存在だ。
「昔小さな温室で植物を育ててたことがあるんです。掃除をした冬のある日、温室に入れ忘れた植物があったんです。数日後に気がついたとき、そいつはぐったりしてました。焦って温室に戻しましたが、そのまま枯れてしまいました」
「……それは、残念でしたね」
「実は僕、新しい学生がくる度に、彼らに種を蒔いています」
「へえ、面白いですね」
由良は興味深そうに五郎を見た。
「地面にどっしりと根を張るには、ただ発芽させるだけじゃ駄目なんですよ。散々踏みつけられて発芽した種は強いんです。そうやって、一度底まで落ちてから、再び這い上がった心は強くて、たとえ体が悲鳴を上げていても、心がまだやれると思えば体はついてくるんです。僕は学生に罵声を浴びせながらも、その中にある種の状況を見てます。水は足りてるか、栄養をちゃんと吸収しているか、気にしているんです。だから、安心してください」
五郎がそういって微笑むと、由良は安心したように笑った。
※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、組織、名称とは一切関係ありません。