第2章 俺×受験者 救助 2-3
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――1日目、学科試験。
いよいよ、救難員課程の試験がはじまった。レバニラパワーのおかげか、今日は調子がいい。
勇登は機嫌よく試験会場の席につくと、他の受験者を見渡した。受験者は20人といったところだろうか。合格者は毎年数名程度。勇登と同じくキョロキョロしている窓際に座っていた小柄な奴と目が合った。階級は3曹、肩幅もないし、身長も160あるかないかだ。
――随分小さいな。
彼は勇登の心の声がわかったのか思い切り睨んできた。まずいと思い視線をそらすと、今度は別の男と目が合った。
「あっ」
お互い目を見開いて、みつめあってしまった。
透き通るようなグレーの瞳に、自然な色合いの茶髪。彼は入隊以来の同期、沢井ジョンだった。ジョンは祖父がアメリカ人のクオーターだ。彼がメディックを目指していることは、教育隊時代に風の噂できいていた。
「お前、どこにでもいるな」
ジョンは薄目で勇登を見ると、いやみったらしい口調でいった。
「お前こそ」
勇登も平坦な口調で返した。
教育隊時代、二人は張り合った挙句、勇登が褒賞をとり卒業時に表彰された。その後も職種が同じ消防で、術科学校では、ジョンが褒賞を取った。
会場に試験官が入ってきたので、今度はお互いにそっぽを向いた。
――あいつにだけは、負けなくない。
当時の悔しさが蘇ってきたが、すぐに頭を切り替えた。一時的な感情にとらわれて、時間を無駄にするわけにはいかない。勇登は、目の前の問題に集中した。
*
――2日目、面接試験。
勇登は焦ってトイレに向かっていた。間もなく自分の順番だというのに、緊張しているのか、朝から尿意が止まらない。面接のようなかしこまった席は少し苦手だ。
「うわっ」
廊下を曲がったところで急に出てきた人にぶつかった。勇登は相手に覆いかぶさるように倒れこんだ。
――ん?ぐにゃ?
勇登が両手に何か柔らかいものをつかんだと思った瞬間、彼は勇登を思い切り蹴り飛ばした。
「いってぇ」
その勢いで座り込んだ勇登の目の前には、昨日目が合った小柄な奴がいた。勇登は先ほどの手の感触を思い出した。
――女?
しかし、既に仁王立ちしているその人物は、自衛隊の挙措容疑基準の男性モデルのような、バッチリもみあげがカットされた短髪だった。勇登が座り込んだまま自分を蹴り飛ばしたその人物の足元を見ると、女性自衛官用のパンプスを履いていた。やはりWAFだ。
確か、過去に救難員になったWAFはいない筈だ――。
「おい、オレが怪我したらどうすんだ!気をつけろよ!」
――オ、レ?
勇登は見た目と言葉遣いと体型の違いに混乱していた。WAFらしき人物は、胸を掴まれたことには一切触れず、昨日と同じように勇登をにらむと走り去ってしまった。勇登は呆然としたまま、ボールを掴んだときのような形のままになっている手を眺めた。
――小柄な割にでかいな。
「……あ、トイレ、それから面接!」
頭を振って煩悩をどこかにやると、勇登は全力で走り出した。
その夜、勇登は同じ部屋に泊まっていた他の受験者から、彼女がはじめてのWAF受験者、浅井亜希央(あさいあきお)であることをきいた。
※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、組織、名称とは一切関係ありません。