第2章 俺×受験者 救助 2-4
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――3日目、体力測定、泳力測定。
雲一つない空の下、勇登が握力でジョンと張り合っていると、後ろからひときわ大きな声援が聞こえた。
「8、9、10、よし、あと2回!」
懸垂場所では、周りの受験者が懸垂する亜希央を応援していた。
懸垂の合格最低ラインは12回。女性自衛官も体力的には普通の女子が多い。しかし、彼女は細身ながらも無駄のない鍛え上げられた肉体をしていた。それに、WAFの場合体力測定の懸垂は斜め懸垂だが、これは普通の懸垂だ。真っ赤な顔を鉄棒まで引き上げるのを見て、勇登も応援したい気持ちになった。
「12!」
その瞬間、それまで冷静に計測していた測定員が小さくガッツポーズしたが、すぐになおった。
そんな亜希央の姿を見て、勇登も気合を入れなおした。
体力測定を終え昼食を済ませた受験者たちは、今度はプールサイドに集まっていた。
勇登は最後の試験に備えて、昼食は満腹にならないように調整した。これまで、学科、面接、体力測定と手ごたえは十分に思えた。後は最後の泳力測定を全力でやりきれば、試験が終わる。
クロール、平泳ぎ、自由形、横潜水、呼吸停止、縦潜水、浮き身の連続測定が終わり、最後の立ち泳ぎに移ったとき、受験者はみなフラフラしていた。勇登も数日に及ぶ試験の緊張と、午前の体力測定で疲労はピークだった。
この訓練用の深い深いプールの水面に5分浮かんでいられればよいのだ。
これを頑張ればすべてが終わる。
勇登は両手で頬を2、3度叩くとでプールに入った。
勇登の隣には亜希央が並んだ。昨日の出来事を思い出すといろんな疑問がうかんだが、今は自分のことに集中した。
目標時間は5分。
心だけは落ち着かせて、懸命に手足を動かし続ける。
2分経過。
3分経過。
あと1分で5分――。
と、勇登の視界から亜希央が消えた。
――!?
プールサイドがざわつく前に、勇登は潜っていた。
真っすぐに沈む亜希央を追う。勇登は彼女を少し追い越し腰をつかむと、渾身の力で水面を蹴り上げて浮上した。そして、勇登と同時に飛び込んていた監視員と一緒に、亜希央を引き上げた。
亜希央は少し水を飲んでしまったようで、ごほごほした。
「……両足、つ……って……」
引きつり顔の亜希央がそういっている間に、監視員は既に彼女の足の筋肉を伸ばしていた。
勇登の測定結果は4分3秒と記録された。
その後も、残りの受験者の測定が淡々と行われた。すべての計測を終え、試験官が試験を終わらせようとしたとき、亜希央が立ち上がった。
「熊野曹長、彼にもう一度やらせてあげてください!」
亜希央は必至の表情で勇登を指し示した。
強面の試験官は、表情を変えることなくいった。
「救難にもう一度はない。試験は終わりだ。解散」
※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、組織、名称とは一切関係ありません。