小説『メディック!』

#16『メディック!』【第3章】 3-1 俺×同期 はじまりの予感

2021年8月4日

第3章 俺×同期 はじまりの予感 3-1

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第3章 俺×同期 はじまりの予感

 年を越した2月初旬。

 勇登は愛知県小牧基地救難教育隊への転属が命じられた。今回の試験に合格した全員が同じ命を受け、救難教育隊に同期が揃う。
 今後は、はじめの数週間小牧で導入教育を受けた後、岐阜の救難員(衛生)課程、一度小牧に戻り教育を受け、陸上自衛隊第1空挺団基本降下課程を無事に終えた後、再び小牧に戻ってはじめて救難員課程が開始される。

 新しい環境への期待と、厳しい訓練への不安が入り混じる複雑な心境で、勇登は小牧基地に入った。長い道のりを共にする同期も気になるところだった。巨大なOD色のバッグを抱えた勇登は、内務班の玄関先で宗次と再会した。お互い丸刈りの頭を冷やかしながら、居室に向かった。

 部屋に入ると南側の窓から穏やかな日差しが差し込んでいた。向かって右側にベッドが二台と同じ数のロッカー、左側にベッドが三台とこれまた同じ数のロッカーがあった。これから一年、この部屋が拠点となる。
 既に二人が部屋にいて、右奥の窓際のベッドの上であぐらをかいていた男が立ち上がった。180センチはあろうかという長身で、顎のラインがしっかりとした精悍な顔つきが、頼りになりそうな印象だ。

「おつかれさん。俺は斧剣山(おのけんざん)。一応今期の学生長だ。29歳でギリギリ入校できたおじさんだけど、よろしくな」
 勇登より六つ年上なだけでなく、名前も強そうだ。勇登は丁重に挨拶をすませると、今度は左奥のベッドで寝転がる人物に向き直った。
 そして、そいつの背中を全力で叩いた。

「いってぇ!」
 そう叫んで飛び起きたのは、ジョンだった。

「よお、久しぶりだな、ジョン。お前なに窓際のベッド、キープしてんだよ」
「はあ?別にいいだろ。早い者勝ちだ」
「俺とお前だけならそれでいいさ、でも、吉田3曹がいるんだから、ちょっとは考えろよ」

 二人がいまにも殴り合いを始めそうな雰囲気を察知して、宗次がいった。
「……あの、僕はどこでもいいから。それに同い年なんだし、そんなに気、つかわなくていいよ」

 ジョンが勝ち誇ったように笑った。
「ほうら、そういってんじゃん」
「お前はぁ!」
 勇登がジョンの胸ぐらをつかもうとすると、ひょいと間に割って入った人物がいた。

「まあ、まあ、まあ。落ち着いて下さい」
 細身の彼は勇登の腕を掴むと、いとも簡単にジョンから離した。
 勇登は彼の腕力に驚いた。

「つーか、お前誰?」
 ジョンが真っ黒に日焼けした彼の手を押しのけるといった。

「あ、一応同期の青戸吉海(あおとよしうみ)です。もっというと、志島士長と沢井士長とは入隊同期なんすけど、年齢は一つ下なんで、よっしーって呼んで下さい。この基地で人事やってました。あ、この辺ちょっとは詳しいんで、わからないことあったらいつでもどうぞ。血液型はB型。好きな食べ物は肉類全般。趣味は水泳とダイビングとかかな。あ、実家会社経営してて子どもの頃からよく連れてってもらったんすよ、ダイビング。この間の正月も、南の島に行って、冬なのに真っ黒になっちゃって、あは。それから、自衛隊に入ったのは、親にいわれて渋々だったんすけど、今じゃなんか体質に合ったみたいで、はまっちゃって……」
 その場にいた全員が、いつ終わるとも知れない吉海の自己紹介を、呆然ときいてしまっていた。

「あの、青戸士長……」
 宗次が申し訳なさそうな顔をすると、吉海がハッとしていった。

「あ、そうだ、教官が全員揃ったらすぐに作業服に着替えて、教官室に顔出せっていってました」

「それを、先にいえ!」
 勇登とジョンのハモった声を皮切りに、全員バタバタと着替えをはじめた。

つづく

※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、組織、名称とは一切関係ありません。


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