第6章 ナオ×美夏 セラピスト 6-3
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*
――カラン、カラン。
店のドアが勢いよく開いて、ナオの勇登センサーはすぐに反応した。週末から夏季休暇に入るという情報は既に得ていたから、レバーの準備もバッチリだった。
ナオが笑顔で出迎えると、勇登は目の前で手を合わせた。
「ナオ、今晩一晩、泊めてくれ」
「え?な、な、な、なんで?勇登を?」
ナオは瞬時に赤くなった。想定外過ぎる言葉だ。
「いや、俺じゃなくて」
勇登は続いて店に入ってきた女性に目をやった。
10人にきいたら間違いなく9人は美人と断言するようなきれいな子だ。
「……どなた?」
ナオは舞い上がってしまった声のトーンを下げてそういうと、首をかしげた。
「ほら、昔クラス会で会ったっていった、浜松の同級生」
ナオはすぐに思い当たった。確か戦闘機のパイロットを目指している子だ。
ナオは勇登のシャツを掴んで引き寄せると、小声でいった。
「それはわかったけど、なんで私が?」
勇登は更に小さい声になっていった。
「ほら、何か落ち込んでてさ、浜松には帰りたくないっていうし、泊まるところも決まってないって、ほっとくわけにいかないだろ。だからって、俺の実家に泊めるのも問題だろ」
「私が泊めるのは問題ないわけ?」
「ま、そういうなよ、な?な?」
勇登に押し切られ、ナオはしぶしぶ彼女を泊めることにした。
*
ナオは勇登に水も食事も与えずに追い返した。
――勇登のやつ、今度来たらこっそりレバーに激辛を仕込んでやる。
ナオは美夏を店の裏の住居部分にあげた。
「ええと……」
「飯塚美夏です。ナオさん今日はありがとうこざいます」
美夏は深々と頭を下げた。
あまりに謙虚で礼儀正しい姿に、ナオは断ろうとしていた自分に罰の悪さを感じた。
ナオは美夏を茶の間に案内するといった。
「古い家でごめんね。あと、空いてる部屋ここしかないの。後で布団持ってくるから、ここでいい?」
美夏はちゃぶ台の前に座ると、部屋の隅にある仏壇をじっと見た。
「ああ、ごめんね。人んちの仏壇なんて、ちょっと怖いよね」
「いえ、大丈夫です」
「その写真は、じいちゃんと父さんよ」
ナオは美夏が怖くないように、仏壇の写真の説明をした。
「お父さん着てる服って……」
「ああ、民間機のパイロットだったの。でも、飛行機が墜落して……ね」
「……ごめんなさい、余計なこときいて」
「ああ、いいの、いいの。こんな話しても、暗くなるだけだから、勇登にもいったことないんだ。だから、やめ、やめー!」
ナオは努めて明るく「店からコーヒー持ってくるね」というと、部屋を離れた。
※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、組織、名称とは一切関係ありません。